虫を喰らう人びと



 このあいだ僕が、世界ではどんな昆虫が食料になったりするのかを調べていて、面白い本が見つかったので紹介したい。三橋淳さんの『虫を食べる人びと』(平凡社)

 この本は食虫習慣のある国や、食材にされている虫の種類なんかを細かく説明してるんだけど、これがなかなか面白い。

 日本人が、虫を食べるという話を聞くと「このゲテモノ食いがッ!」なんて怪訝な顔をする人も多いが、日本人だって結構ムシ食べているよ……とこの本はいうのである。イナゴや蜂の子の類じゃない。日ごろ、僕たちが知らず知らずに食べている、食材に混入してしまったハエやゴキブリの話なのだ。

 ゴキブリなんて死んでも食えない!…… などと拒絶反応に身震いし、ヤワなインテリを装うあなた。あなただってもう、取り返しのつかないほどゴキブリを召されているのですよ。

 たとえば目に見える形で食材に入っているなら判りやすい。食堂で注文した厚焼き卵の中心部に、黒いハエが組み込まれていたなんてのは年中である。しかし加工食品など、工場で生産された食材に混じってしまった虫を見つけだすのは難しい。すりつぶしてから成形することが多いため、原形を残さないからである。

 どんなに近代的な工場でも、100%完全に虫を駆除するなんて不可能。というより、そうとう入っちゃうらしい。虫の方から食べ物に寄ってくるんだから、どうにも仕方ないのである。

 そこでこの本は、アメリカの食品医薬品局が認める、昆虫混入の最大許容レベルを紹介していた。それによると

【ピーナッツバター】  100グラム中、昆虫断片50個
【カレー粉】       25グラム中、昆虫断片100個
【缶詰トマト】     500グラム中、果実バエ卵10個、または100グラムで果実バエ卵 5個と幼虫1匹。あるいは100グラムで幼虫2匹

 ご丁寧にどうも……という感じである。アメリカの基準ではあるが、これぐらいなら虫が入ってもいいよ、という限界レベルが決められていたのだ。政府公認なのである。

 だが、ここまで説明されたって、食えないものは食えない。「だいじょうぶ! この量なら政府公認だから」とハエを9匹、白いお皿に勧められてもなかなか食える人はいない。では、どうすれば食えるのか? 姿や形がダメならば、ゴキブリでダシを取った「公認ミソ汁」なんて応用もあるが、食前に知らされるなら同じことだろう。

 しかしである。僕が笑ってしまうのは、これまで説明したことなんか資料を出すまでもなく、みなさま良く知ってるハズなのだ。ふだんは事実を黙殺しているだけ。だから同じ内容でも「公認ハンバーガー」や「公認みそ汁」は食えないが、「黙殺バーガー」なら食える。不文律ならOKという理屈らしい。

 こういった人間の不可思議な心理を、精神分析の用語で説明すると「心の切り離し作用」と呼ぶらしい。心と現実の間には、車でいう「クラッチ」の働きをする部分があって、現実世界であまりにも衝撃的な出来事や、耐えられない苦痛などがあるとクラッチが切り離され、心が壊れないように保護する役割があるとか。
 だから僕たちには「一般的には異物混入もあるだろうが、いま僕が食べている、このハンバーガーだけは大丈夫!!」なんていうメチャクチャな理屈が生まれる。人間の感覚なんて、結構いい加減なものなのだ。

 まぁ、こんな内容の文をメモにはしり書きながら、左手におむすびを食べてる僕の神経もどうかしているが……。

 付け加えると、いま僕が食べているこのおむすびは、まちがいなく安全である。さっき買ったばかりだし…… それに僕は、日頃のおこないが非常によい。お年寄りには親切で、あまり頭の良くない子供には絶大な人気がある。そんな正直者の僕に虫など食わす理不尽は、ぜんぜん通らないからである。

 

 

 

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